こんにちは。今回は
  • 「制定しよう 放射能汚染防止法」(山本行雄著、星雲社)
  • 「第6章 福島第一原発事故 原子力公害被害者の権利」
  • 「6‐03 国は被曝誘導政策を改め原子力公害被害者を救済せよ」
  • についてお話してみたいと思います。

    これまで述べてきたことを前提に意見形式でまとめます。


    (1)国は、被災者に被曝の受任を強いる復興政策を改めよ

  • <要求事項>
  • 国は、公害の被害者である福島第一原子力発電所事故による被災者に対し、公害法の整備を怠って無権利な状態に置く一方、原子力災害特措法や福島復興再生特措法によって、避難指示解除、避難者の住宅支援中止などの政策を実行し、年間20ミリシーベルトの被曝基準による帰還促進政策を実行している。これらの一連の政策は、復興政策の名の下に被災者の弱みにつけ込んだ公害被害者に対する国家的人権侵害である。このような政策を実行してきたことについて被災者に謝罪するとともに、被曝の受忍を強いる復興政策を改めること。

  • <解説>
  • ①国は、原子力事故の被災者に対して、環境基本法に則って、公害被害者救済のための法整備や施策を講じなければならない義務があります。しかし、国は故意にこれらの義務を怠っています。一方、復興支援を打ち切るという政策により、年20ミリシーベルト基準の被曝を受忍させる帰還促進政策を実施しています。
    ②これは、汚染地域の経済復興のために、被災者に対して、被曝受忍せざるを得ない立場に追いやる違法な政策であり、直ちにやめるべきです。
    ③環境基準法に従って公害被害者を救済しなければあならない国が、義務を怠っているだけでなく、法制度を濫用して組織的に被災者の人権を侵害しているのです。

    (2)国は、福島第一原発事故による公害被害者救済の法整備義務を果たせ

  • <要求事項>
  • ①国は、環境基準法に則って、福島第一原発事故に伴う放射能汚染から被災者を救済する法制度を整備する義務があるのに果たしていない。この義務を果たすこと。

  • <解説>
  • ①環境基本法13条の削除に伴い、国は、同法に則り放射能汚染に伴う公害法の整備をしなければなりません。(6-01参照)
    ②2011年6月衆参両議院は、水質汚濁法改正の際、その附帯決議において、放射性物質につき「環境関連法における放射性物質に係る適用除外規定の見直しを含め、体制整備を図ること」とし、更に2012年6月の汚染対処特措法附則において「放射性物質に関する法制度の在り方については抜本的見直しを含めて検討を行い、その結果に基づき、法制の整備その他所要の措置を講ずる」ものとしています。しかし、国は具体的な法整備を行っていません。最優先して行われるべき福島第一原発事故の原子力公害被害者に対する法的救済については、何も具体策を定めていません。

    なお、請願書、意見書、要望書などを作成する場合の理由については、上記理由に加えて6-01にある環境基本法の条項を示すと良いでしょう。

    (3)国は、被災者には1ミリシーベルトを超える被曝を回避する法的権利があることを確認し、避難の権利を具体化せよ

  • <要求事項>
  • ①法律上の公衆被曝線量限度は1年1ミリシーベルトであり、国はこの基準に基づいて被災者を被曝から救済する義務があることを確認し、その前提に立って被災者救済の施策を実行すること。(注2)
    ②被災者は、公衆被曝線量限度年1ミリシーベルトを超える被曝を回避する法律上の権利がある。従って国はこの権利を妨害することなく尊重して被災者救済の施策を実施すること。
    ③避難指示解除に伴う年1ミリシーベルトを超える地域の被災者に対する救済として、損害賠償、避難の権利、住宅支援などを具体的に策定し実行すること。
    ④国は、東京電力に対して行っている避難指示解除に伴う賠償義務打ち切りの行政指導を直ちにやめること。

  • <解説>
  • ①原子力災害特措法による避難指示の線量基準20ミリシーベルトは公衆の被曝線量基準ではありません。法律上の公衆被曝線量基準はあくまでも1ミリシーベルトです。
    ②原子力災害特措法が避難基準をどのように決めようと、公衆被曝線量基準の1ミリシーベルトを超えて被曝させたことが被災者に対する違法な権利侵害であることに変りありません。次の(4)の解説参照
    ③従って、国は、少なくとも現行法上1ミリシーベルトを超えて被曝させない義務を負い、被災者は1ミリシーベルトを超えて被曝しない権利があるのです。
    ④政府は、東電の避難者に対する慰謝料について、避難指示解除後も2018年3月分まで支払うよう指導する意向を示しましたが、これは被災者支援ではなく、被災者に対する権利の妨害です。

    (4)国は、違法な20ミリシーベルト基準を破棄せよ

  • <要求事項>
  • ①国は、福島第一原発事故による住民の避難基準を年間積算線量20ミリシーベルトとしたが、これを破棄すること。
    ②避難指示解除後の帰還居住者の被曝線量限度基準は、自動的に1ミリシーベルトとなることを確認すること。

  • <解説>
  • ①避難指示解除後、公衆の被曝線量基準を20ミリシーベルトとするのは、全く法的根拠の無い違法な基準です。
     原子力災害特措法の緊急事態宣言に伴う避難基準は「緊急事態なので避難せよ」として設定された数値です。公衆を生活させ被曝させてもよいという法的根拠にはなりません。緊急事態宣言があろうとなかろうと、避難指示が解除されようがされまいが、我が国の法律上、公衆被曝線量限度は1ミリシーベルトです。(2-03特に<原子力災害特措法の濫用>参照)
     避難指示解除後、そこに住む住民には、唯一の法的な公衆被曝線量基準である1ミリシーベルトが自動的に適用されるのは当然のことです。
    ②国は、ICRPの勧告を「国際的基準」とか「国際的合意」などと述べ、あたかもICRPの勧告を国際法上の法的基準のように宣伝しています。しかしICRPは私的学術団体に過ぎず、その勧告はなんら法的効力を持たないものです。避難解除後の法律上の公衆被曝線量限度は1ミリシーベルト以外にありません。
    ③実質的に見ても、原子力災害特措法による避難基準の20ミリシーベルトは、労災認定基準5ミリシーベルト、放射線取扱者らが保護される放射線管理区域の年5.2ミリシーベルトの4倍です。このような異常に高い数値を「安全」とみなすのは、公害防止の基本原則である予防原則を大きく逸脱するものであり、原子力公害から被災者を守るべき国の義務に違反し違法というべきです。

    (5)政府は「子ども被災者支援法」の実施に当たって、原子力公害被害者に対する救済義務として履行せよ

  • <要求事項>
  • ①環境基本法の改正により、放射性物質が公害原因物質として位置づけられた現在、子ども被災者支援法施策は、被災者を原子力公害の被害者として救済する国の義務に合致するものでなければならないこと。
    ②被災者等の意思による居住、移動、帰還の選択については、公衆被曝線量限度1ミリシーベルトを基準とし、避難の権利を明確にし、住宅支援その他の生活支援を公害被害者救済策として実施すること。

  • <解説>
  • ①放射の汚染が公害として扱われることになったのですから、子ども被災者支援法は、環境基本法の定める公害被害者への救済策として策定されなければなりません。
    ②現行法上公衆被曝線量が1ミリシーベルトである以上、公害被害者が、1ミリシーベルトを基準として被曝を回避するために避難する権利があるのは当然です。
    ③住宅支援についても、現在の災害救助としての住宅支援策で国の義務を尽くしたことにはならないのです。原子力公害被害者の被曝を回避する権利としてとらえ直す必要があります。

    (6)国会は「子ども被災者支援法」を改正し、公害被害者に対する救済内容を具体化せよ

  • <要求事項>
  • ①子ども被災者支援法について、国会は、政府が具体策を講じない事を放置することなく、唯一の立法機関として、同法を改正し、具体的な救済策を定めること。
    ②同法の改正に当たっては、被災者が原子力公害の被害者として、環境基準法の定める内容に則して救済を受ける権利があることを明記すること。
    ③国には原子力政策を推進してきた責任があることを明記すること。
    ④具体的内容としては、1ミリシーベルト以上5ミリシーベルトまでの選択的避難の権利保障、住宅保障、医療保障、受診医療機関の選択の自由などを詳細に定めること。

  • <解説>
  • ①子ども被災者支援法は、日本版チェルノブイリ法を目指したと言われています。しかし内容に目を通せば、違いは歴然としています。チェルノブイリ法が被災者の「権利」として具体的に定めているのに、子ども被災者支援法は「権利」という構成になっておらず、具体策を政府に丸投げしています。
    ②この理念法に近い法律を政府が具体化しない以上、これを具体化する責任は国会にあります。

    子ども被災者支援法の具体化問題は、この章に述べられていること全体に係っています。意見書、要望書などは組み合わせて作成してください。

    (7)国・自治体は、子どもに転地保養の権利があることを認め、具体策を実行せよ

  • <要求事項>
  • ①国・自治体は、汚染地域に住む子どもに転地保養する権利があることを認め、具体的な施策を実行すること。(注3)
    ②国会は、子ども被災者支援法の施行ないし法改正を待つことなく、単独立法をもって至急整備し、施策を実行させること。
    ③子どもの転地保養は、児童福祉法の「児童副保障の原理」(3条)に基づき、同法の定める国及び地方公共団体の責任として行うこと。
    ④子どもの転地保養は、被曝線量1ミリシーベルトに限定することなく被災地に住む児童に広く認めること。
    ⑤子どもの転地保養は、国の画一的方法によらず、ボレンティア団体などの経験・実績を踏まえ、自主性を尊重し、人と人との自然な繋がりを尊重して行うこと。
    ⑥子どもの転地保養の事務は市町村の担当とすること。

  • <解説>
  • ①まず、理屈抜きに、次の児童福祉法の冒頭3ヶ条を読んでください。

    児童福祉法 1947年12月12日制定

    第1条〔児童福祉の理念〕
    ①すべて国民は、心身ともに健やかに生まれ且つ、育成されるよう努めなければならない。
    ②すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。
    第2条〔児童育成の責任〕
    国及び地方公共団体は、児童の保護者と共に、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
    第3条〔児童福祉保障の原理〕
    前2条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたって、常に尊重されなければならない。

    ②児童福祉法は、憲法制定の翌年、生存権に基づいて制定された法律です。この土台は、環境基本法第1条と共通です。(6-01参照)
    ②被災した子どもは、被曝の恐れや、行動制限に伴う、精神的肉体的ストレスを受け、生存権を侵されています。
    ④国や自治体は、環境基本法の定める責任に加えて、子どもに対しては、児童福祉法による特別な責任が課せられているのです。
    ⑤子どもの転地保養は、多くのボランティアによって行われてきましたが、当然限界があります。すべての被災した子どもに持続的な転地保養の機会を与える必要があります。
    ⑥子どもは日々成長し、また新たに誕生しています。至急法整備すべきです。立法技術的にも特別難しいものではありません。
    ⑦具体的な支援内容や仕組み(財政的助成策、自治体、ボランティア団体の位置づけ、修学制度との関係など)は、児童福祉法の理念に則して定めりことになります。
    ⑧6-01の国の責任と一体として理解し、国レベル自治体レベルで要請していきましょう。



    ※注2 放射線被曝をさせる行為は健康に害を与える違法行為です。被災者は福島第一原発事故以前の自然環境を享受する権利を侵害されたものです。(「放射能汚染防止法制定運動ーガイドブックー 環境基本法改正に伴い当面必要な法律案骨子」4-05)。これを前提に、少なくとも国は、現行法規上の基準である1ミリシーベルトを越えて被曝させてはならない具体的義務があるということです。

    ※注3 「転地保養」という用語は、チェルノブイリ原発事故後比較的広く使われてきたものです。